現場のプラ(お寺)の大階段の下では、ナンディスワラの台座が、少しずつ少しずつできていく。
パラスと呼ばれる石のブロックとレンガを積み上げる。パラスは、近くのバツブラン村の渓谷でとれる石で、火山灰が粘土になり固まって凝灰岩になる寸前といった感じの柔らかい石だ。
少しずつ少しずつ積み上げて、高さ90cmに到達するのに5日間かかった。
その悠々たる仕事ぶりを、ジュプンの木陰に座って日がな一日見物しているおじいさんがいる。白髪混じりのいがぐり頭で、黒縁のメガネをかけ、白いTシャツによくあるサルーンを巻いている。
Tシャツには“CAT FEEDER”と字がプリントされ、かわいい2匹の猫の絵が描いてあった。ペネスタナンの単なる暇なおじいさんなのだが、ニコリともせず眺めている哲学者のような風貌を見ると、作業を監視している人間国宝の親方か、この寺の信望深い檀家総代かと思ってしまう。
ちょうど、寺の境内では何の縁日なのか闘鶏が行われていて、地元のギャンブル好きの連中が2、30人集まっていた。
寺のそばのバライ・バンジャール(集会所)の前にかわいい少女がポリバケツをふたつ抱えて来た。その後に母親がついてきた。
皿のたくさんはいった大きな金ダライを頭に載せている。
闘鶏仲間を目当てに、突然ミニ・ワルン(小さな屋台)の開業である。この店のメインはラクラク。小さな丸くて堅いパンを2つ蛤のように合わせて、中にグラバリという黒砂糖と椰子の実の白い繊維をはさんで食べる。これは実に美味なるおやつである。
ニコリともしない哲学者の横の木陰に並んで腰掛けて、ラクラクをかじりながら、少しずつ少しずつパラスとレンガが積み上がっていくのをぼんやりと眺めていた。
職人は2人。老人と若者。もっぱら若い方が専門に積んでいく。老人の方は、脇でパラスを切ったり削ったりしながら、頃合を見計らってモルタルをこねて補充したりしている。若い棟梁に運良く仕事をもらった、近所のおじいさんといった感じだ。
使っている道具は結構多い。まずレンガ用の鏝が2本である。それにモルタルをこねる鍬が1本。水をまくための紙コップが2個。バケツも2個。
パラスやレンガを整型するのに、両端に刃のついたタガネが大小4本とカンナが3種類。金鋸の刃が数本。これはパラスを切ったり、モルタルを削ったり、長さを測ったりするのに用いる。
さらに、水平をとるための透明のビニールパイプ。スチールの小型直角定規2本、3mの日本製メジャー、金槌。以上である。
石とレンガの積み方は例によって擦り合わせ法である。水を垂らしてすり合わせ、セメントの粉をパラパラっとまいて再びすり合わせて固定する。その過程でセメントはパラスの粉と混じり合って、モルタルというよりもお汁のようになってしまうので、さて強度という点で寄与しているかどうかについては、はなはだ疑わしい。水でくっつけているようなものだ。
泥水の入った紙コップを上から手で覆うようにつかんで、人差し指と中指の間からちょろちょろと水を注ぐその華麗な手つきは、見事に様になっていて、さすがプロの首尾である。まるで年季のはいったバーテンダーのようだ。
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