2009年8月21日金曜日

028 石像の彫りかた


6月、ペネスタナンのお寺(プラ)で、石彫りに精出している職人たちがいた。
お寺は改築して4月に盛大なオダラン(お祭り)をやったはずなのだが、新築した建舎のひとつの入口周りがとうとう未完成のままで間に合わなかったらしい。あらためて石の階段を作り、その手すりを兼ねた一対の大きな竜を、よってたかって彫っている。

お寺の中には小さな建舎がいくつもあり、階段の竜はこれが完成すれば計3対になる。ナーガという名前らしい。
誰が考え出したのか、階段の手すりを蛇や竜で飾りたてる風習はアジアのいたるところに見られるが、なかでもこのナーガは、上海やバンコックなどのそれと比較すると姿が単純でパワーがある。
手足がないから、竜ではなく蛇かもしれない。

職人は、6名がかりである。ボスは30歳前のロージャ氏。他は皆若い。ひとりは27歳、もうひとりは24歳と言ったが、平均年齢は25歳程度か。
全員ギヤニャールのスカワティ村、シンガパドゥのバンジャールから来ている。石も、その近辺から持ってきたらしい。

石というよりも粘土に近い。この近くのバツブラン村でとれる石は、美しい地層模様の入ったちょっと柔らかい石で、色や質感はこれによく似ている。しかし、こちらはむしろ、ちょっと硬い粘土と言ったほうがよい。
普通のコンクリートブロックより一回り大きく、逆に厚みは少し薄いサイズに整型してある。

これを積み上げて、大まかな形をつくる。積み上げるには、石材にカンナ(!)をかけて面を平らにした後、すでに積んだ石に擦りあわせて密着させ、ほんの気持ちだけセメントをふりかけて接着する。

積み上がった塊を手斧で荒削りし、タガネのようなもので形を整えて、最後は糸のこの刃で作ったノミでチョコチョコ擦って仕上げる。

これが中間仕上げである。本当に完成させるには、さらに小さなノミを用いて、繊細な装飾模様を全体に施す。

一般には、この工程のどこで止めても一応完成した気持ちになれるようだ。

大まかな形に積み上げただけのものがたくさんあって、件数的にはこの段階で終わっているのが大半である。仕上げると何になるのか、おおよその想像はできるので、「例えばここにナーガがある」というつもりになれるから、それでいいのだろう。

しかし、中にはよくわからないものもある。たぶん、次に仕上げる人の創造力に任せる場合もあるのだろう。次に、というのが何年後なのかは、おそらく誰にもわからない。大まかな形のままですっかりコケ蒸して、それはそれで重厚な作品化したようなものも多い。

お金ができると、中間仕上げまで持っていく。さらにお金ができると、最後の装飾模様を施す。
このプラの3対のナーガは、1対がここまで行っていて、1対が大まかな形のまま、今作っているのがどうも中間仕上げ止まりのようだ。したがってここに来ると、「ナーガの作り方」の3駒写真がいっぺんに撮影できる。


横で見ていたら

「やってみる?」

といっていきなりタガネを渡された。下手に削りすぎると大変だ、タガネはいかにも勇気がない、というと

「大丈夫、まだ完成でないから」

と、暢気なものだ。失敗しても石材を継ぎ足すなどの修復が可能なのだろうが、あまり迷惑をかけてもいけないので、糸のこの刃に持ち替えて、仕上げを手伝うことにした。

右手で構えて左手を添えて、サクサクと削っていく。この感じはとても快適で、思わず気が入ってしまった。木彫よりもはるかに楽である。

暇なときには、どこかの彫刻現場に行って手伝わせてもらうのもよい。確実に、数日はつぶせる。

0 件のコメント:

コメントを投稿