2009年8月31日月曜日

031 ナンディスワラの寄付のしかた(1)


マデのお父さんのバッパに、前にこんなことを言われていた。

「プラ(お寺)に彫刻を寄付しなさい。それに『ナミ』と書いておきなさい。そうすれば、私もあんたも居なくなった後に、村の人がそれを見て『ナミって誰?』と話すだろう。あんたの息子の太郎やうちのマデがその署名を見ると嬉しいだろう。彫刻を寄付しなさい。太郎とマデの時代のために」

しばらく知らん顔をしていたのだが、ある日、急にそのつもりになった。さっそくバッパに相談すると、それはよい、それはよいと大層喜んで、どこに何を置くかは難しい判断がいるので、私に任せてほしい、とのことだった。
それから、マンク氏(村のお坊さん)をはじめ何人かの重要な人への打診手続きを経た後、翌日耳打ちしてくれた答申の内容は、次のとおりである。

まず、置く場所はプラの一番正面の一番大きな門の前。そこに1対のナンディスワラを置く。高さは1.5メートル。
ナンディスワラというのは、ラクサソの中の一種である。ラクサソというのは守護神で、言ってみれば門番だ。バッパは

「ポリスのようなものだ」

と言っていた。仁王様の親戚、である。
ナンディスワラは、それぞれガドゥとチャックロウを持ったものにしなさいとのこと。いずれも携帯している武具の名である。

正面の大門の前に置くのには、ふたつの理由が挙げられた。
ひとつは、誰の目にも見えてよくわかるから、という理由。これにはバッパ一族の見栄が多分に働いているようでもある。

もうひとつは、プラの中の場所の性格がまだよく決まっていなくて、これから徐々に決まっていくからだそうだ。
天国に一番近い所とか、何とか、性格付けがされていくらしい。それに伴って、現在置かれている種々の神像は、新しい適所に移される可能性がある。正面の大門は、もうその心配はない。これには、説得力がある。

ただ、他の像が適所に移されるとしてそれは何年後のことかとは、敢えて聞かなかった。ひょっとしたら50年後のことかも知れない。そうすると、太郎やマデの時代ではなく、太郎の子供やマデの息子のトリスタンの時代ということになる。

ともかく、正面の大門の前にガドゥとチャックロウを持った高さ1.5メートルのナンディスワラを1対置くことになった。決めてからあらためてプラを見渡してみると、おそらくこのプラの中で最も巨大な神像となることに気づいた。そういえば、仁王様も大きい。

これには、さらに後日談がある。

日本に帰ってから、電話がかかってきた。その後再びマンク氏に相談すると、高さは3メートルでなければね、ということになったらしい。
前の話しと違うではないか、ということはいつものことなので、さして驚かない。
それから、置く場所も大門の前ではなくて、さらにその前面の大階段の下がよかろう、ということになったのだという。あそこなら、確かに3メートルくらいの高さがないとバランスが悪いだろう。

さらに、そういうわけで少し値段がはる、という話しが最後におずおずとつけ加えられた。どのくらい? 返ってきた答えは、並の給料取りの、どうかすると70ヶ月分!の金額であった。
バリでちょっと気前のよい風を見せると、たいていこのように事が運ぶ。このプロジェクトは、その後さらに大掛かりなことになってしまうのだが、そのことは後で紹介する。


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