2009年7月3日金曜日

008 ひったくり


昨日、泥棒の話しを書いたので、ついでにひったくり事件に遭遇した話しを書く。

朝起きると、テラスでドイツ人の若いカップルがお茶を飲んでいた。
API-APIはウブドゥ周辺を巡るルーラル・トレッキングの定番コースの中で、ちょうど都合のよい場所に位置するので、休憩に立ち寄る人がときどきいる。
ゆっくり相手をしたいところだが、警察に滞在届けを出しに行かなければならないので、二言三言挨拶を交わして、そのまま街に出かけた。おとなしそうなカップルだから、むしろ邪魔が失せてよかったかもしれない。

警察署では、大勢の警察官諸君がそれぞれの部屋に陣取って執務していた。一番手前の入口にある机を取り囲んで、いつものように数人の警察官がたむろしている。ここは、よろず受付のようなところで、泥棒がはいったとか、捕まえたとか、喧嘩したとか、物をなくしたとか、様々な相談を受け付けて調書を作成する。場合によると机の前に、被害者らしき人や被疑者らしき人もしくはその両方が座らされていて、侃々諤々やっていることがある。そんな時は、その間を「ちょっとごめんよ」とかき分けて入れてもらうことになる。
滞在届けの担当は、一番奥だ。そこに行くまでに、すべて(といっても途中3つ)の部屋の前を通るので、全体をチェックできる。それぞれの部屋にはたいてい1人か二人の係官が退屈そうに座っているだけで、何もしている様子がない。ほとんどの用は入口の所ですんでしまうのだろう。

滞在届けは、ものの5分程度で終わる。

帰路、チャンプアンの橋を渡ったところで、なぜか人が大勢路上に集まっていて、ただならぬ雰囲気である。道ばたに並んで横の排水路の中を覗き込んでいる一団がいる。反対側の路上にも人だかりができていて、こちらはいくつかグループをつくって興奮しながら何事か相談している。車を降りて排水路の中を見ると、一台のバイクが見事にすっぽり落っこちて、ひっくり返って腹を見せていた。
なにがあったのか、単なる事故でもなさそうだ。人だかりの中に、奇遇にも朝のドイツ人カップルがいた。
「どうしたの?」
「強盗に会った」
なんと、彼らこそが渦中の人であった。聞き出した顛末は次のとおりである。

API-APIを出て、ふたりが歩いていると、3台のバイクがやってきて、うちの1台が彼女のリュックをもぎとって逃げようとした。彼氏が走って追いかけて、それをもぎとり返したところ、かわいそうにもそのバイクはひっくり返って溝に落ちてしまった。犯人はあわてふためいて、他のバイクに拾ってもらい、2台と3人は一目散に逃げてしまった。一瞬のことで、顔はよく覚えていない。
強盗というのはオーバーだが、泥棒としては乱暴だ。

取り返したという彼女のリュックには、乾いた泥があちこちについていた。ちょっと肥り気味で色白の彼氏は、玉のような汗をしたたらせつつ、一大ハプニングに遭遇したびっくり仰天と、彼女の前で獅子奮迅の大活躍ができた嬉しさとで、大いに興奮していた。

やがて野次馬たちに事のあらましがおおかた伝わって、熱気が収まりかけた頃、若いポリスがひとりでやってきて「なんだ、どうした」ということになった。

彼は周りの連中に指示して、やっとこさバイクを引き上げると、それを押して道の脇に止め、検分をしはじめた。

これから、この2人のドイツ人とバイクは、さっきのウブドゥ署の入口の机のところに行くのだろう。犯人も、ナンバー付きのバイクを置いていったのでは、占い師のご託宣を受けるまでもなく,すぐに足がついてしまうに違いない。翌日のあの机の周りの光景が目に浮かんだ。

「バリにはこそ泥や嘘つきはいるけど、強盗はいません」というのが、バリの観光ガイドの常套句であるが、最近はちょっとあやしい。経済情勢が悪くなって、外国人の数が減ると、こういう物騒な事件も起こるようになる。


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