2009年7月1日水曜日

006 ジェゴッグ


踊りの伴奏は、いわゆるガムラン楽団。ガムラン音楽は、血沸き肉踊る音楽で、踊りがなくても全然飽きない。ガムランには青銅のガムランと竹のガムランとがある。普通は青銅のガムランで、これは青銅製の鉄琴(というのも変だが)、銅鑼、トロンポンという大小のおっぱいをずらっと並べたような楽器、それに太鼓と笛で構成される。竹のガムランは“ジェゴッグ”と呼ばれ、大小の竹製の木琴(これも変だが)のオーケストラで、青銅に比べると聴く機会は少ないものの、迫力はこっちのほうがはるかに大きい。

ジェゴッグは、最近はウブドゥに楽団ができていて驚いたが、もとはバリ西部のヌガラにしか楽団がいなかった。「ヌガラのスワル・アグン楽団はいいよ」と聞いて、ぜひ生で聴かせてもらいたいと思い、車で訪問したことがある。

事務所に行って「明日、ウブドゥのAPI-APIに来てもらえないか?」と聞いたら「いいよ」とふたつ返事。ところが、帰りがけにスタッフが追いかけてきて「ごめん、うっかりしてたんだけど、明日はオーストラリア公演に出発する日なのでペケ。でも安心。別の楽団が行きます」。
よろしくお願いします、といって翌日夕食時に待っていたら、トラックに20人ほどの団員が乗ってやって来て食事の間中演奏と踊りを楽しませてくれた。これがわたしのジェゴッグ初体験である。ジェゴッグも新鮮でなかなかよかったが、外国公演と、見ず知らずの個人のお座敷とが同列なのにも驚いた。

その後、ウブドゥのはずれにできたカフェのオープニングイベントに「スワル・アグンが来る」という話しを聞きつけたので、招待状はなかったが行ってみた。

カフェといっても、まわりはぐるっと一面の田んぼという場所である。小雨が降っていた。カフェの中は、客と団員が入り乱れて開演までの暇つぶしの最中。たまたま座った隣が団長さん。「この前は残念でした」「ああ、あんときゃ、ごめんね」
というような話しをしていたら「さあ、そろそろ始めるか」という段になった。号令一下団員たちが駆けて行った先には、すでに楽器がしつらえてあって、いきなり演奏が始まった。ずっと向こうの田んぼの中である。音につられて、お客さんたちも走っていく羽目になった。
刈り取りが終わった田んぼを何枚か進んでいく沿道に、重油のランプが点々と滑走路の誘導灯のように置いてあって、われわれを導いてくれる。その先で、客もいないのに、かれこれ80名ほどの楽団が二手にわかれて演奏の真っ最中である。しかも、雨足はさっきよりも強くなっている。

団員よりもはるかに数の少ない招待客は、暗闇のなかで最初は周りをうろうろしながら鑑賞していたが、やがて目が慣れてくる頃には、演奏の迫力に誰もがトランス状態になり、楽団に混じって木琴を叩くもの、低音楽器の下に潜り込んで空ろな目で雨宿りしているもの、など、もうなにもかもが渾然一体となって、はちゃめちゃな空気の中を音楽が渦巻いた。どのくらいの時間か忘れたが、とにかく最初から最後まで休みなく、二手の楽団がある時は一体で、ある時は掛け合うように、目くるめくような音を爆発させ続けたのである。

楽器も人もびしょ濡れで、濡れた体から出る湯気が、あたり一面にもうもうと立ち上がっていたことを、よく覚えている。
これが、わたしのジェゴッグの2度目の体験。かなりヘビィな経験であった。

バリに行ったら、ぜひジェゴッグ鑑賞をお奨めする。踊りもよいが、ジェゴッグはもっと凄い。とくに“スワル・アグン”と聞いたらお見逃しのないように。

2 件のコメント:

  1. はじめまして。楽しく拝見しています。
    ジュゴグ、素晴らしく陶酔的なんですね.
    聴きに行きたいです。

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  2. Agunさん、ぜひぜひどうぞ。
    聴かれたら、またここにコメントしてくださいね。

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