API-APIの前でぼおっとしていたら、突然ジープが止まって、半袖のカーキ色の制服に肩章をつけた4人の男がバラバラっと飛び降りてきた。家の中に早足で入っていく。何だ何だ。家には今誰もいないはずだ。わたしは驚いて彼らの後を追った。
わたしは尋ねる。
「あなたたちは何者か」
そのうちの若くて賢そうな一人が前に出て答える。
「ギヤニャール県の政府である」
それに続けて、彼は鉄砲玉のように質問やら感想やら冗談やらをまくしたてた。
「どこから来たか。そうか日本か。いつまでいるのか。どこに住んでいるのか。この家の名前は何というのか。ここの住所はどこか。朝食は何を食べた。ビーチには行ったことがあるか。お前は何歳か。家族はどこか。子供は何人いるか。バリの女性は美人だろう。私についてくるか。紹介してやろうか。そのTシャツが気に入った。この制服と交換しよう。いいか? いいか?」
と制服を脱ぎ始めたところへマデが帰ってきた。するととたんに、4人は大真面目な顔になって用件を果たし始めた。
「この家の登録免許の申請が出ていない。これからその事務を行う」
ロンボク島の沖合いの小島のホテルが、営業許可無しで客を泊めていたら、ある朝海から軍隊が上陸してきて、柱という柱を全部チェーンソーで切り倒していった、という話を聞いたことがある。それを思い出して、わたしはマデの対応を固唾を飲んで見守った。
「1回で払うのと、毎年払うのとどちらがよいか。この家にはAPI-APIのマークが描かれているので、その分も払う必要がある。さて、家具は? 土地は? 建物は? まあ、評価額は○億○千万ルピアといったところだね。全部で○○ルピア払いなさい。これが登録証である。これをあげるから、誰かが来たらちゃんと見せてね」
登録証なるものの内容と計算根拠について、4人がかりで手取り足取り説明をしてくれた。それで用が終わると
「それじゃね」
といった感じでジープに飛び乗って、あっという間に帰っていった。
バリのお役人は、ロンボクに上陸した軍隊ほど乱暴ではなく、陽気でウィットに富んでいて、親切でなおかつ機敏である。マデに
「あれは本当にギヤニャール県の役人か」
と聞いたら、ちょっと考えた後で
「たぶんそうだろう、と思う」
と答えた。そうでなかったとしても、驚くほどのことではない。
Tシャツと制服を交換しておけばよかった、と後悔した。
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