K子さんは、30代前半の日本人女性であった。
当時、クタのコス(アパート)に一人で住んで、衣料品やアクセサリーのバイヤーのような仕事をしていた。しっかり者で、これはと思った裁縫技術者(彼女は「お針子さん」と呼んでいた)をつかまえて、自分のブランドをつくったりもしていた。
いろいろ苦労もあったと思うが、そんなことをグチったのを聞いたことがない。賢くて冷静で、それでいて溌剌としている彼女は、とても魅力的な人であった。バリについてずいぶんたくさんのことを彼女から教わった。
といっても、本題はK子さんのことではない。彼女から後で聞いた、同じコス仲間の話しである。
フィットリーちゃんは20歳の見目麗しい女の子である。近くのブティックに勤めている。わたしも何度か会ったことがあるが、すらっとしていて、思わず襟を正してしまうような美人だった。
この子が、3日間行方不明になった。
結婚を約束した彼氏にふられたので、傷心のあまりバイクに飛び乗って、そのまま走り回っていたのだそうだ。自分でもどこに行ったのかわからない、とにかく泣きながらがむしゃらに運転していたら3日過ぎていたのだという。
その後も続けてブティックを無断欠勤してコスにこもっていたら、7日目になって店の同僚が偵察に来た。正直にわけを話すと、報告を受けたボスがいうには
「そういうことであれば休んでもしようがない。直ったらまたおいで」
ということで、1週間の無断欠勤は不問に付された。
行方不明の経過もすごいが、不問に付すというのもなかなか太っ腹だ。
彼女にとって初恋だったという彼氏は、医者で2、3歳年上の幼なじみだという。すっかり結婚するつもりだったのに、親同士が仲が悪く、それが原因で破談になったらしい。
フィットリーちゃんのことは、これでおしまい。
ロンボク出身のユニちゃん27歳の場合も激しい。彼と喧嘩して頭にきて、突然意識を失ってしまった。意識をなくしたまま「別の人になって」、刃物を振り回して大暴れしたらしい。自分では全く覚えていないのだが、彼にひっぱたかれて初めて正気に戻った。
いずれの話しも、どうも男の影が薄い。なんだか中途半端に正気で、おろおろしているような様子を想像してしまう。
これに対して、バリの女性はすさまじい。感情の起伏が、人間の域を離れて霊界まで達している。このことを、ブティックのボスもよく知っているのだ。
これだけ激しいと、その後カラリと晴れるのが嬉しい。まるでスコールのようだ。
ティダ・アパアパ(010話参照)を絵に描いたような、よく言えば優しくて包容力にあふれたバリの男たちに比べて、バリ娘はだいたいこういう感じであるから、みんな気をつけたほうがよい・・・と思う。
フィットリーちゃんは、その後すぐに新しい彼氏が見つかって、今は幸せ一杯の日を送っているらしい。スコールの去った後は、空も地上もきれいに掃除されて本当にすがすがしい。
写真は、記事とはまったく関係がありません
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